切れない糸
坂木 司
−離れていても、遠い気がしない。
「ここにいてくれたらな」と思うことはあっても、寂しくはない。
一人でいても、一人じゃない。
そう思える相手に私は結構出会ってるんじゃないかって思う。動物的にいうと「感」だったり「匂い」だったり。そういったたぶん何があってもこの人とは縁が切れないだろうっていう「何か」を嗅ぎ取っているように思う。私は一見誰にでも愛想がいいらしいけれどそれだけ相手を警戒している場合が多い。実際に泣いたり怒ったり無理を言ったり・・・困らせられるだけ困らせても「はいはい」って受け止めてくれるその人たちに私は何度となく救われ心を許してる。どんなことがあってもあんたの味方だからって言ってくれた人、まぁ仕方ないよねって受け入れてくれた人−そして私は彼女や彼らのおかげでいろんな人と知り合いいろんなことを知っていける。今の私はこの人たちのおかげでいる。それこそどんどん伸びる切れない糸のように。
主人公はある商店街のクリーニング店の息子。蒸気に囲まれて育ったせいかすっごい寒がり。それに心底困った顔をした生き物によく助けを求められる。大学卒業を控えたある日突然父親が急死した。生まれてこの方変化のなかった朝食:ご飯・ワカメと豆腐のみそ汁・目玉焼き・漬物がコンビニのサンドイッチになった。母親が大切に育てていたシクラメンも枯れた。あんなに繁盛していたカウンターも埃がつもった。そんなある朝アイロン技術がピカイチのシゲさんの一喝。そしてチャーリーズエンジェルばりに頼もしい長年パートで勤めてる3人のおばちゃん(その名も松岡さん、竹田さん、梅本さんの松竹梅トリオ)も加わりとうとう主人公と母親は店を再開する。
気づかなかった。確かにクリーニング店ってすごい。客が持ってくる服やらなんやらでその家の家族形態もその家の人のサイズも、もしもレシートなんかがポケットに残っていたらこの人がどこで何を食べたのかまでわかってしまう。個人情報満載だ。この本はそうした客から集荷した服がきっかけで始まる話。例えば今まで午前中だった集荷が夕方になりその中には洗濯機で洗えるようなものまで入っているお客の話だったり怪しげな水商売風な服ばかり出すおっさんの話だったり・・
困り果てる主人公を助けてくれる喫茶店ロッキーのアルバイト沢田の「魔法の言葉」も加わり話はどんどんどんどん進む。主人公と同じように推理したり笑ったりだぇ〜って思ったり。4つの短編集だけど1話に出てきた人が3話で重要な役についていたりする。本編でも描かれているけれど「さぁどうだ合ってるだろ」って言ったところで現実は解決しない。「その先」が本当は重要なのに。例えば本を読んだではなくてその本を読んで何を感じたか?が重要なように。
正直にいうとこの話の面白さを文章に描けない自分がはがゆい。
田辺聖子の
鏡をみてはいけませんだったり瀬戸内寂聴の
いよよ華やぐのようにこの本もおいしい食べ物がいっぱい。こういった作品って好きだなぁ。豚肉のしょうが焼き・目玉焼き付きハンバーグ・フレンチトースト!そしてコーヒーを丁寧にいれたくなった。あのふんわりとした香り。豆をひいた時に香る優しい匂い。幸せを感じる瞬間。
そんな幸せな感じがこの本にはいっぱい詰まってました。本の装丁も好き。
この本にでてくるようなクリーニング屋がきっとこの高岡にもいっぱいあると思う(すっごい小さいのに繁盛してるお店とかあるし)。クリーニング店に限らず少しづつでもいいから自分にとってお気に入りの店をもっと見つけたいな。主人公が少しづつ地域に思いを寄せる気持ち。つながりというかそういう若い頃にうっとうしいと感じた地域密着。不思議と考え方が変わってきたことに主人公と同じように私も驚いている。たまに野菜をくれる近所のおばちゃんや口うるさい酒店の店主、近所中の人に見守られて走り回る子供たち。内情つつぬけ状態のこの町内(笑)でもなんんていうか楽しいし安心できる。ほっとする。
それにしてもご飯じゃなくてパンの朝食に憧れる主人公にはすごく共感があった。実家が農家なのでご飯+みそ汁は私の家の朝食も変わらなかったから。大学生になり一人暮らしをしてパンとスクランブルエッグの朝食を食べた時の感激!わかりますか?
そんな私も今では朝食はご飯でしょうって思ってるんだけどね
そうそう、この本には生活に役立つちょっとした豆知識もいっぱい^^