町長選挙
奥田 英朗
−わしらは全員、島を愛しとる。その上で戦うんじゃ
4年に一度の町長選挙が行われる小さな島。現町長の小倉派と前町長の八木派。前回の町長選での差はわずか5票。町長になれたほうについていればその後4年の地位は安泰。逆なら課長が一気に給食センターでしゃもじを振るうことだってある。普通の選挙じゃない。賄賂はあるはなんでもあり。タダでさえ敬老会の支持を得たと思っていたのに特養老人ホームのことで一気に加速化。敬老会は伊良部先生が支持した候補者に入れるという。その数500票。さてさて−
はちゃめちゃなのにハッとしてしまう。小さな自己満足な正義感を崩してくれる。確かに正義感だけで島は運営できない。生きてくことに正義感とかそんな奇麗事なんてなんになる、そう言われた気がした。机の上の論争は所詮机上。実際にしてみないと何もわからない。私、思うんです。最近の公務員に対するバッシングがそれに近いんじゃないかと。私自身も役場時代結構友人に言われた。確かにそうかもしれない。でも実際に公務員をしたこともない人間が公務員をバカにするのは許せない。「そんな風に偽善者ぶるんならお前もやってみろ」と思う。必死でしてる人のこといたずらにバカにするな、と。と同時に公務員も民間をバカにするな、もっと謙虚になれ、とも思うけど。
そのほかに3編。
自然体と言葉に翻弄され演じ続けるカリスマ主婦の話。
合理化を求めるあまりにひらがなが書けなくなったIT企業家の話。
死が怖くて暗闇やフラッシュがダメになったある新聞社のオーナーの話。
もしかしてこれってあの人?と思わず思ってしまう人たちがでてくる。
私が見てるテレビや新聞の情報に実はこんな舞台裏があったのかなと思うと幸せな気持ちになった。
やっとひらがなを思い出してきたいい大人が幼稚園児を相手に真剣にカルタで勝負。5枚続けて取ったとこで金タライで突然頭を殴られた。
「ひとりで勝ってると遊び相手なくなるよ」
そうして開いた記者会見。思わずニヤっと笑った。
きっとこの世界は情報に流されてる。それが本当かどうかなんてわからずに。でも自分が見ている世界はひとつじゃない。ちょっと視点をかえるだけでいろんな視線でみることができる。それを受け止めるのはきっと楽しい。